(第12話)介護の重要ポイント・その1「時間をコントロールせよ」

【まず、デイサービスの利用を目指そう】

親の介護をする子が介護疲れを起こす構造は、サラリーマンが会社勤めで病んでしまうのととても似ている。
「介護(仕事)とは、多少きつくて当たり前。出来ないのは自分がうまくやれないせい」
そんな思い込みで我慢を重ね、自責の念でどんどん袋小路に追い込まれていってしまう。

しかし、どうしてもその仕事が嫌なら転職すればいいのと同じで、介護にも「どうしてもつらいなら自分でしなくていい」という選択肢がある。

予測も制御も出来ない親の言動に振り回され、自力での介護が困難になったとき、自分のメンタルを守る単純かつ最も効果的な方法が、親との接触時間を減らすことだ
その具体的な手段として最初に挙げられるのが、デイサービスの利用である。

デイサービスとは、ざっくり言えば、介護施設が朝から夕方くらいまで親を預かってくれるサービスだ。食事や入浴の世話にはじまり、運動や脳トレなど各種アクティビティを行い、通所者(つうしょしゃ=通いで施設を利用する人)の人間性や社会性の維持まで請け負ってくれる。
認知症になると風呂に入ることを極端に嫌うようになる場合があるので、親の悪臭や衛生管理に困り果てている介護者にとっては、上手に誘導して入浴させてもらえるだけでも本当にありがたい。

誰でも、自分の親とケンカなどしたくないし、できれば楽しく暮らしたい。けれども、精神的に疲弊した状態では、人は寛容になどなれない。
デイサービスは、表面的には被介護者のためにあるサービスのように見えるが、その実、介護をする側のメンタルを整え、優しさを取り戻すための仕組みでもあるのだ。

では、デイサービスを利用するにはどういう手順を踏めばいいのか?
それには、要介護認定が必要になる。

 

【要介護認定とは】

日本では、65歳を超えると誰にでも、病院で使う医療保険の保険証とは別に、介護保険被保険者証というものが市区町村から送られてくる。
これは「あなたは行政が用意しているいろいろな介護にまつわる支援(デイサービスもその一つ)を受ける資格がありますよ」というお墨付きのようなものだ。
これは医療費と同じように、介護にかかる費用の大部分を国が負担してくれるという意味でもある。

だが、介護保険被保険者証をただ持っているだけでは、国の支援は受けられない。ひとくくりに65歳以上と言っても、面倒を見てくれる同居の家族がいる人、いない人、ピンピンしている人から少し体が不自由な人、認知症の人やほとんど寝たきりの人まで、状態は実にさまざまだ。
そして、介護サービスにかかる莫大な費用を、65歳以上の人たち全員均等に、国が際限なく肩代わりできるわけでもない。予算には限りがある。

そこで、ひとりひとりの健康状態や生活状況にあわせたサービスにするために、最初に本人の現状を調べ、どの程度の支援が必要な人なのかを表す7段階のランク分けをする。これが、要介護認定だ。
その煩雑な手続きを助けてくれるのが、いきいきセンター(地域包括支援センター)というわけだ。

いきいきセンターで、社会福祉士のKさんがまず最初にやってくれたのは、ハハに会ってランク分けのためのヒアリングを行う認定調査員の手配だった。
認定調査員は自宅にやってくると、和やかにおしゃべりをしながらハハに質問を投げかけ、体力の有無や情緒の安定、認知能力など、いろいろな角度からハハを丸裸にし、生活力がどの程度なのかを見極めた。

これと並行して行ったのが、脳神経外科での認知機能検査だ。記憶力と判断力を調べ、認知症の有無やその程度をはっきりさせる。そこで書いてもらった診断書と、認定調査員が作成したレポートを総合して、ようやく介護ランクが確定するのだ。

介護のランクは、軽い方から順に、要支援1、要支援2、要介護1、要介護2、要介護3、要介護4、要介護5の7段階に分かれている。
細かい説明はここでは避けるが、要支援レベルではあまり本格的なサービスは受けられず、要介護レベルになるといきなりサービスが手厚くなる。
介護認定を受けるための手続きを始めてから約ひと月後、ようやくハハのランクが決まった。
ハハは、第3段階にあたる「要介護1」だった。

【ハハの時間を可視化する】

社会福祉士のKさんは、要介護認定の段取り以外にも、何も分かっていない僕たちのために、デイサービスを行っている施設をいくつかピックアップしてくれた。

「お母様のランクが要介護1と出ましたので、私に出来ることはここまでです」

「と、言いますと?」

「私たち地域包括支援センターが関与できるのは、要支援2までなんです。要介護1からは、ケアマネージャーが担当することになります」

ケアマネージャー。また知らない単語が出て行きた。

ケアマネージャーとは、今後お母様の介護をどのようにやっていくかをプランニングしてくれる担当者のことです。デイサービスを受ける施設の選定や利用日数・契約なども、すべてケアマネージャーさんを通して行います

「そうなんですね」

「エンゾーさんはどなたかお知り合いにケアマネージャーさんがいらっしゃいますか?

「いいえ」

「では、相性が良さそうな方を私たちでご紹介させて頂きますので、あとはご自宅で面談の上、契約を行ってください」

「分かりました。いろいろとありがとうございました!」

ニッコリと微笑むKさんは、僕たちにとって、文字通り救いの女神だった。ビバ・いきいきセンター!

いよいよハハをデイサービスに送り出すときが近づいてきたわけだが、我が家の場合、デイサービスの利用には、単に「ハハとの接触時間を減らし、タマシイの平穏を得る」という以上の目的があった。ハハが酒を飲みに行くチャンスを減らしたかったのだ

一週間のうち、わずか数日でもいいので朝から夕方までの時間を施設で過ごせば、その間は「酒を飲みには行ってない」と断定できる。
ハハが何をやっているのか分からない時間を減らし可視化することが、自分たちの安心につながるのだ。

この方針は、この先も形を変えながらずっと継続されることになるのだった。

第13話へつづく)(一つ前の話に戻る


投稿日

カテゴリー:

投稿者:

タグ:

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です